『虹の女神』レビュー撰1


■みんなのシネマレビュー

【マンフロント】さん [DVD(邦画)] 10点(2008-01-05 11:20:59)

あおいは恋よりも、創造の女神を追求する妥協をしらない映像ストーカーだ。しかし人は、一人の人間として、片面だけで生きるのではなく、生を総体的に実現して生きたいとも想う。つまり男勝りの仕事をするキャリアウーマンも、家庭にはいり、愛する人との子供を生んで育てたいと考える女としての一面を同時にあわせ持つ。学生時代、ディレクター時代、あおいは妥協を許さないたくましい創造者と、繊細で臆病な女性の両面の間で揺れ動いている。あおいの自主映画は、表現者としてのあおいを仮託したストーカー智也が、死に行く女としてのあおいを看取る映画と解釈できる。このようにあおいの女性としての一面は、デート喫茶でミットモネー状態となったり、智也からも女を感じない、といわれたりで、創造者の一面とはちがってなかなか世間に認めてもらえず抑えられ続けてきた。そしてあおいが智也の背中を他の女へと押したように、智也はあおいを創造の女神へ向かうように押し続ける。あおいが卓也の背中を、他の女へ向かうように押すのは、幸福な恋愛が創造する魂をスポイルするのを、彼女の創造者としての一面が防ごうとしているからではないか。あおいが智也の鈍感なところを好きなのは、その鈍感が、彼女の創造者としての一面と、恋する女としての一面を共存させてくれるからではないか。そして創造する魂のために彼女は志半ばで倒れることになり、最後の最後に彼女が抑え続けていた、少女のように純粋な女としての一面の想いが、手紙の中の指輪に結実して表現されることになる。 深夜TVでちょっと見ただけで主演二人のリアルな演技にひきこまれ、ラストの指輪でついにかなえられなかった思いの切なさが心に残る。見返すたびに発見があり、解説サイトを読むことで映像の意味が深まり、深読みの楽しみもある上野樹里の魅力が炸裂する傑作。



【鉄腕麗人】さん [映画館(邦画)] 9点(2006-11-05 17:50:48)

淡い光の中で、様々な人間たちがそれぞれの思いをありのままに繰り広げる。 こういう映画は、僕自身が映画を見始め、映画を志した頃に好んでよく見たタイプの映画で、好きだし、弱い。 加えて主人公たちも、映画を撮り、フィルムを遺すのだから、もう個人的には“オテアゲ”状態である。 だが、とても良い映画だったと思う。 とても近くにいた人の大切な想いを、その人が遠く離れてしまってからようやく気付く。いや、ほんとうはとっくに気付いていたのかもしれない。でも、近いからこそ、無意識に気付かないふりをしてしまっていた。 プロットとすればよくあるタイプではある。でも、やわらかい光に溢れた映像美の中に、時にシニカルに、時におかしさを含めながら、切なく描き出す。そういうキレイ事だけで留まらない映画の表現的な巧さが光っている。 ヒロインの上野樹里や、その盲目の妹を演じる蒼井優が、当然の如く巧くて、本来もっと主人公として際立つべき市原隼人が(若い二人の女優に)食われすぎている感はあるが、不器用で切ない人間模様を瑞々しさと安定感をもって表現されていたと思う。 この映画は、美しい光に溢れ、“虹の女神”なんていかにもキレイなタイトルがついてはいるが、主人公たちも含め登場する人間たちは、決して“完璧”なんかではない。 優柔不断だし、屈折しているし、虚栄的だったり、臆病者だったりする。 でも、そういうことが人間として当然だし、だからこそ垣間見えてくる“輝き”とその“美しさ”というものをこの映画は認め、映し出す。 失わずに済むものなら、それにこしたことはない。しかし、必ずしもそういうわけにはいかないのが、人間というもの。 そういった人間の根本的な部分での、「儚さ」と「美しさ」を描く作品だった。


■CinemaScape


アオイのこころ
Linus


1度目は試写会。2度目はシネコンで観てきた。

最初の感想は、かなり伏線張りまくって上手くできているなぁ、というモノだった。映画脚本というのは観客を2時間拘束し、なおかつ飽きさせない! という使命があるので、かなりの情報量を盛り込まないといけない。 TVドラマ的な展開だけを速くすればいいのか? というとそういうわけでもなく、一人一人の人物や背景を描かずギャグを飛ばした会話だけで物語を構築すると、TVドラマファンの受けはいいが、「これは映画じゃない」と、映画ファンたちのお叱りを受けることになる。明らかに観客層が違うので、テレビ局が映画に参入するのが普通のこととなった現在、どちらに軸を乗せて作るかという問題もおきてくるだろう。その意味で『虹の女神』は、プロデューサー&監督が大学の自主制作に関わってきただけあって、映画ファンのための映画として成立させている。

岩井俊二さんがラジオ番組で「観客は2時間という枠の映画を楽しむのかもしれないが、作っている人間は、年という単位を作品に凝縮させている」みたいなことを言っていた。1年や2年…もしかしてそれ以上かかる時もあるかもしれない。その月日を、ぎゅっと2時間におさめる。とても贅沢な娯楽であることは間違いない。そして脚本(物語)の基本は「人間を描く」ことで、その後に時間軸を利用してみたり、小道具をちりばめ伏線を張ったり、観客の感情をスムーズに心地よい波に乗せる、という職人芸のような技の世界となる。この「虹の女神」は、十分にその技を披露し、なおかつ俳優陣も、きっちり仕事をこなし、監督も演出と映像美で魅了させ、「映画」という総力戦で勝負している姿勢に清清しいまでの感動を覚えた。

そして2度目の観賞。

アオイという女の子の性格は、なんて自分に似ているんだろう……である。この役を演じた上野樹里さんが、自分のことだと思った。と何かの番組で言ってたし、原案の桜井亜美さんも、自分のことだと思ったみたいなことを書いていた。そう。これは、気が強くて何かに夢中になり頑張ってる女性の強さと弱さの物語なのだ。岩井俊二さんの作品は、すべて観ているが、男の人ってこういう女の子が好きなんだろうな、という感想を持つことはあっても、決してシンクロすることはなかった。それが今回はどうだろう? 男の理想としての女は描かれていない。現実にもいそうなアオイという女の子が、泣いたり笑ったり頑張ったり恋をしたり傷ついたりする日常を描いているのだが、スクリーンに映し出されるアオイの一挙手一投足が愛おしいのだ。

自分に似ていると前置きをしておいて、愛おしいというオチになったら、ただのナルシズムなわけだが、やっぱり上野樹里のアオイが、不器用で可愛いかったとしか言いようがない。それくらい表情が豊かで、アオイの口からこぼれる言葉の一つ一つが、心に沁みた。気が強いくせに好きになってしまう男が“だめんず”なのも、ツボだった。つーか。好きになった人が、王子さまみたいな凛々しさがあるんじゃなくて、ふにゃふにゃした仔犬みたいな目をした男の子というのが、あまりにアオイらしい。

もうこれは、ビンゴで好みの世界としか言いようがないが、多くの人に愛して貰える映画になって欲しいな、と願うばかりである。
(評価:★5)


彼女の死から物語ははじまって、一見穏やかに話は進む。けれど、はじめはほんの小さな波紋だった感情の揺れが、幾多もの細波になって世界を揺さぶる。切なくて、もどかしくて、行き場がなくて。胸を締め付けた。
ムク


上野樹里の気持ちが愛しくて、切なくて、たまらなかった。市原隼人が気になっている女の子の方へ、彼をどんと押した手。抱きしめられても気持ちが通い合っていない抱擁。「日本にいればいいのに」「がんばれ」大切に思われていないわけじゃないのに、欲しかったものとは違うことば。そして映画撮影であんなにお金に困っていた彼女がずっと残していた一万円札の指輪。

いつからだったんだろう。あの虹を一緒に見たときから彼女の中では始まっていたのかと、胸がいっぱいになった。

そして、市原隼人。彼はきっと子どもだったんだと思う。相田翔子を経て、やっと彼は気持ちに向き合える男になって、思い出したのが上野樹里で。けれど、間に合わなかった。

何度か彼女に近しい人に言われていた。彼女はあなたのことがきっと好きだよって。でも、ずっとそれは彼に届いていなかった。なのに、彼女を失った今、手紙と指輪が彼女の気持ちを届けてしまった。

虹はきれいだけれど、留めておけない。どんなに近づこうとしても手を触れられない。やっと本当の彼女に触れることができたのに、もう手が届かない。虹は二人を繋ぐものでもあったのに。

彼女の地球最後の日。彼の声を聞いただろうか。虹を見ていただろうか。

胸が締め付けられる。
(評価:★5)

■AllCinema


そこに僕はいた 投稿者: あり 投稿日: 2006-11-03 07:05:46
【ネタバレ注意】

大事な友達の本当の想いを知って慟哭する僕がそこにいた。
強いフリをしながらも 何気ない言葉で弱さを曝け出す僕がそこにいた。
互いの気持ちに気付けない人に 『馬鹿だなぁ』 とつぶやく僕がそこにいた。
部下へのアドバイスが思わぬ結果になり 戸惑う僕がそこにいた。

“等身大” という表現でも足りないほどのリアリティが スクリーンに溢れていた。

多くの人に薦めたいのに でも自分ひとりでそっと抱きしめて独占したい そんな困った作品が 現れてしまった。 嗚呼、悩む。

学生映画 投稿者: 黒美君彦 投稿日: 2006-10-24 23:04:18
【ネタバレ注意】

「学生映画」といっても、決して出来が学生の制作映画並みという意味ではない。学生映画に独特な空気が全篇に漂っている、という意味だ。そしてそれはとても懐かしく、心地よい。
女優を目指していた親友を突然の事故で失った作家・桜井亜美が、岩井俊二とともに作り上げた作品。恋愛の一歩手前で揺れ動く映画研究会の岸田智也(市原隼介)と佐藤あおい(上野樹里)が、それぞれ眩しい。未知の世界への不安と期待を抱えながら、青春のど真ん中で何かを追い続ける二人。あくまで学生映画のような肌触りの画質にこだわった上で、学生映画にありがちなノイズの多さ、雑多な人物の動きを意識して多用し、不思議な日常感覚の作品に仕上がっている。
正直いうと、個人的に苦手な上野樹里主演ということで不安もなきにしもあらずだったが、意外に拒否反応が起きなかったのは、自然な台詞回しのせいか。私にとってはノスタルジーをかきたてられる学生っぽいやりとりだったが、今の学生もあんな感じなんだろうかね(苦笑)。
いくつか気になったところもある。
タイトルにも入っている「虹」が、今ひとつ作品内で意味を持ち得なかったこと。あおいの盲目の妹かな(蒼井優)が「見えすぎる」こと。この「見えすぎる」というのは視覚的に、という意味ではなく、彼女に与えた鋭い感受性がちょっといき過ぎではないかという意味だ。岸田智也の感情が迸るラストも、それとなくかなのお膳立てという形になっていて、ちょっとあざとい。
それから、登場する学生がいまどきの学生っぽくないこと。そもそも金がかかる8ミリ映画にこだわる学生っていまどきどれだけいるのだろうか〜(苦笑)。これは岩井俊二をはじめとするスタッフのこだわりなんだろうけど、そこだけ20年前にタイムスリップしている感じ(笑)。勿論、8ミリフィルムの持つ彩度とか粒子の粗さなんかはとても魅力的なんだけど。映画内映画の「The End of The World」はいかにも学生映画らしい夢オチで微笑ましいが、音楽のつけ方が如何にもプロでずるい(笑)。
相田翔子のエピソードもちょっと長い印象があった。このエピソードに隠されてしまったためか、渡米してからのあおいと智也のやりとりが殆どないのも、ちょっと不満。
…あれ、気になったところが意外に多いぞ(苦笑)。
でも、帰らざる学生時代の情熱が甦って来て、ちょっと胸が苦しくなってしまった(涙)。何だか懐かしいよ〜。
女の子は特に感涙必至かも。

大学の映画研究会を扱った最近の作品といえば、柳町光男監督『カミュなんて知らない』(05年)が想起されるが、『カミュ』が大人の視線から描いたより不穏な作品だとすると、この作品はあくまで等身大で同じ目の高さから青春を描こうとした作品(ちょっと古い気もするが)だといえる。少女コミック原作のくだらない青春群像映画とは一線を画す作品であることは確かだ。

瑞々しさに溢れた小品 投稿者: 幻巌堂 投稿日: 2006-10-24 17:40:26

 映画オタクたちのちんまい青春メモリー談、なんて言葉で切り捨てられてしまいそうな作品だが、ちょっと待ってほしい。
 まず、言葉少なだがそのところどころにきらめきを感じさせてくれる脚本が捨てがたい。そして、空々しいカットの切り貼りと人物のアップでつなげる即物的なテレビ屋の演出にはない、丹念なカットでつなげる瑞々しい感性の演出が、微かに純粋さの残る青春の日々の危うさを的確にとらえた良質の小品だと思う。ただ、8mmオタクの青春とはいえ、ストーリーを小さくまとめすぎてしまったために、作品そのもののスケールが虹の高さまで届かなかったというか、結果として、描いた青春を突き抜けてそこから始まる何かを感じさせてはくれなかったのが惜しまれる。それでも、登場人物たちの心の痛みには、体の深い部分からの涙を誘われる。
 まだ20歳だというのに上野樹里の表現者としての天性には驚かされる。その8mmオタク女子学生ぶりには、何の違和感も感じられないばかりか、細かな感情の起伏までが本当に存在する人物のように息づいている。見事としか言いようがない。相手役の市原隼人の演技もナチュラルでいい。今のテレビ屋連中には、決してつくりだせない、全編に瑞々しい感性の漂う佳作だ。


■映画生活

フィルムの正しい使い方
2006/11/10 by Baad

日本映画でこんなに映画らしい映画を観るのは何年ぶりでしょうか。昨日まで、週1本はみているニール・ジョーダンのイギリスで撮った作品群と比べてなんとキレの悪い編集のへたくそな映画の多いことよ、と嘆いていたのですが、本当に剛速球級の直球映画を久しぶりに観たという感じです。映画とは、物語を語る以前に、記憶と時間を語るのに優れたメディアである、ということを改めて思い知らされました。特に、編集の旨さはすばらしく、ストレートで単純な物語なのに、見終わってからしばらく涙が止まりませんでした。

原案・桜井亜美というのを、原作・〜と読み違えていて、小説が原作にしてはずいぶんと上手でこなれた脚色だな、と思ったのですが、あくまでオリジナルの映像作品として撮られたものなのですね。この世界は活字では表現できないと思いました。

比較的セリフの少ない映画ですが、映像と編集で十二分に物語が語られているので、その少ないセリフでさえ、時には蛇足に感じられました。劇中で上映される8mmはあおいの気持ちが全部見えてしまうような力のこもった映像で、あそこで全編見せるのは反則技かな、と思ったほど。学生の自主映画って普通あんなに表現力高くないですよね?筋はありがちだと思いましたが・・・

それにしても、実際にも若い頃はありがちですよね。周りからはよく見えていることなのに、本人たちだけが自分たちの気持ちに気づかないって・・・

見方によっては難しく思える映画だとレビューを読んで判りましたが、迷っている方には、取り敢えずは、一度は映画館で観ておいたほうがいいよ、とお勧めしておきます。滅多にない傑作ですし、映画館で集中してみた方が見逃す部分が少ないだろうと思いますので。

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